2019年05月09日

今年も,『理科の教室』の発行時期となりました。『理科の教室』は,長野県の小学校で行われた理科に関する実践事例が紹介されている冊子で,毎年長野県内の小中学校にお送りしています。

今回の第95号は,先生方の理科に関する実践に加え,小学校で初めてメンデルの法則を取り扱った教材,信濃教育会編『高等小学理科筆記帳』に携わった長谷川五作先生に関する記事が,雑誌『信濃教育』1584号から転載されています。

メンデルの法則といえば,中学校や高校の理科の時間に習った,エンドウマメを使って遺伝の法則を発見した実験が有名ですね。ここから,遺伝子に関する研究が大きく発展することになりました。

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元号が令和に変わって以降,さまざまな平成を振り返る企画がテレビ等で取り上げられていましたが,平成は,私たちにとって遺伝子が身近な存在になった時代でもあると思います。

ヒトのDNA配列を解析するヒトゲノム計画は,平成2年から始まり,同15年に完了しました。その解析費用は,3000億円以上かかったと言われているそうです。その後,アメリカの企業が従来手法よりも優れた解析装置である次世代シーケンサーを開発して以降,飛躍的に短時間・低コストでの解析が可能となっています。

解析方法の改善で,平成の終盤には,日本でも1万円程度からの価格で自分の遺伝子を解析してくれるサービスが登場しました。それを使えば,例えば「母方の祖父がハゲているから,自分もハゲる可能性が高いかも?」といった疑問が,遺伝子検査という根拠をもって,はっきりすることになります。

現在の遺伝子解析では,主に発がんリスクの発見やオーダーメイド医療への活用など,医療分野での活用と研究がメインです。しかし令和時代には,AIの発達とともに遺伝子解析もより高度になり,今は想像できないさまざまなことがわかるようになるでしょう。自分でも気付いていなかった新たな才能が明らかになる,なんてこともあるかもしれません。


そうした無限の可能性がある一方で,遺伝子検査結果を広告宣伝や生命保険加入審査に利用する動きがあるなど,また別の問題も引き起こし始めています。

例えば,現在は入学・入社時に,履歴書に加えて健康診断結果の提出を求められることがあります。その延長で,遺伝情報結果の提出も求められ,自分の遺伝的能力の不足を理由に入学・入社を断られる……。そんな未来が来るかもしれません。少しゾッとしますね。


冒頭で紹介した『理科の教室』の記事の最後には,『長谷川五作先生著作選集』の教育論の一部が引用されています。
良い遺伝的能力を享けぬが最後,どうすることも出来ぬように悲観する者もある様であるが,之は誠につまらない考えである。吾々の能力は遺伝で決まって限られて居るというべきだが,併し発達し得るべき可能の範囲が極めて広いことも考えなければならぬなからである。

長谷川先生にとって,遺伝というのは生涯の研究テーマのひとつとするほど,魅力的なものであったと思います。それでも,生まれもった遺伝的能力ではなく,その後の努力による発達の大きな可能性を説いているところに,長谷川先生の教育者としての人柄が表れているように思います。

科学には倫理が必要不可欠です。昨年,遺伝子操作による双子の子どもを世界で初めて誕生させたとして,その研究者が批判された事件もありました。遺伝子研究において科学が「禁じ手」を使うことがないように,私たちも関心をもって見守る必要があると思いました。

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さて,昭和37年に第1号を発行した理科の教室は,平成を経て,ついに,新時代である令和の発行となります。これから,教育に関する様々なことが大きく変わる時代に突入します。きっと,タブレットやプログラミング教材を用いた新しい理科の実践事例も出てくることでしょう。

しかし,脈々と受け継がれてきた信州の理科教育に対する考え方や,「長野県の子どもたちのために」という思いは,これからも変わらないはずです。これからの令和時代も,引き続き信濃教育会の編集のもと『理科の教室』を発行し続け,信州教育の「DNA」を受け継いでいく手助けができればと思います。

『理科の教室』95号は,まもなく各学校にお届けします。ぜひ,手に取ってお読みください。



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