2016年06月10日

ここのところ,デジタル教科書についての報道がにぎやかだ。
教科用図書として児童生徒が実際に使用するには,今までもいろいろ検討はされていたが,
権利面からもハード面からも,経済的な面からも乗り越えなければならない障害が多々あり,
32年教科書改訂では,とても無理だと思っていた。
しかし,文部科学省は,平成32年から「デジタル教科書」を導入する方針を正式に示し,
これからそれに向けた法律の改正も進められるということである。

信教出版でも平成23年から,教授用「デジタル理科教科書」を発行している。
実際の体験を大切にする信州教育であるが,
ICTを活用した教育の効果もしっかり検証しなければならない時代がきているのだとも思う。


さて,話は変わるが,5月に東京都美術館で開催された「生誕300年記念 伊藤若冲展」に行ってきた。
異端,奇想の画家ということで,私が学生のころ日本美術史の講義でその名を聞いた記憶はない。
それが平成12年,京都で開催された没後200年展を期に,にわかに脚光を浴びるようになった。
ここ数年はNHKの番組でも何度か取り上げられ,今やブームといってよい人気だ。

予想通り,チケットの購入に1時間,入館に3時間!,グッズ購入の支払いに30分という混雑で,
すっかりくたびれてしまったが,行ってよかったと心から思える展覧会だった。

ところで今回,私は何を目的にこの展覧会に足を運んだのかということだが,
実際の色を見る,というのが最大の目的だった。
混雑する会場で,なかなかじっくりと作品を鑑賞できないということはよくわかっていた。
人の頭越しで全体を見ることができないこともしょっちゅうあることだ。
そうであるなら,画集やテレビ番組の方がよっぽどきちんと見ることができるはずである。
画集は,ゆっくりと若冲の作品を鑑賞させてくれた。
テレビ番組は,作品を拡大して,画布にのった顔料を詳細に見せてくれた。
表からも裏から顔料をのせる裏彩色の効果もしっかり見せてくれた。
しかし,仕事柄,印刷で実際の色を表すことがどんなに難しいか,
画面の色が,必ずしも現実の色ではないということに悩んでいる身としては,
どうしても本物が見たかった。

満員の館内で見た若冲は,今まで目にしていたものより落ち着いた色合いのように感じたが,
不思議だったのは,有名な群鶏図のトサカの赤だけは,印刷物より,画面より鮮やかに感じたことだ。

人間は,器官としての目と,心の目の両方で物を見るのかもしれない。
であるなら,教材もバーチャル一辺倒ではその本質が見えないのではないかと思う。

前途多難である。

(16:55)